2003
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  「官僚社会主義」&「崩壊する映像神話」―二人の「サムライ」の新刊紹介―

 最近、新聞記者の世界から「無頼派」、かっこよくいえば「サムライ」の姿が、消えてしまった。ここでいう「サムライ」とは、真実を求めて、徹底的に現場にこだわり、筋を通そうとするスタイルを指す。「サムライ」の姿が消えた理由は、複雑化する社会を反映し、ニュースも多様化しているため、続発するニュースを手際よくさばくことのできる「能吏」のような資質を持った新聞記者が、要求されているせいなのかもしれない。

 今や「稀少価値」なった「サムライ」の魂を持ち続けている二人のジャーナリストが、このほど相次いで本を書いた。
二人のジャーナリストの名前は、北沢栄さんと新藤健一さんだ。北沢さんの新刊書は「官僚社会主義」、新藤さんが「崩壊する映像神話」だ。二人とも私が勤務している共同通信社の先輩である。

 北沢さんは家庭の事情で、共同を途中で辞められたが、現在でも貴重なアドバイスをいただいている。北沢さんと知り合ったのは、私が新人の時だ。水俣病の取材を通じて、取材の仕方や記事の書き方、新聞記者の「心意気」を教えてもらった。新藤さんは今、部署は違うが、同じフロアにいる。これまで仕事で組んだことはない。他愛のない日常会話を交わすだけの関係だが、言葉の端々から新藤さんの生きざまが伝わってくる。

 北沢さんと新藤さんには、記者とカメラマンの違いがあるものの共通点がある。それは旺盛な好奇心とフットワークの良さ、直感力の鋭さだ。他人の目や耳を信じない。自ら現場に足を運んで、事実を自分の目と耳で直接確認する。今なお、現場主義を貫いている。今回紹介する二人の先輩の本を読むことによって、新聞やテレビで報道されるニュースの持っている意味のより深い理解が可能になると思う。
 
【新刊紹介】
官僚社会主義(北沢栄著、朝日新聞社、1300円+税)
  ―日本を食い物にする自己増殖システム―
▽目次
 プロローグ「改革」はなぜ常に失敗するのか
 第一部  「官細胞」の実態
 第二部  ごまかしと隠蔽のテクノロジー
 第三部  隠された支配のシステム
 終 章  パノラマ的展望 

▽内容―小泉改革の仮面を剥ぐ!―
 なぜ日本は変われないのか―それは過去の「改革」が、「特種法人」「天下り」「役人の行動倫理」など、問題の原因ではなく結果、深層ではなく表層ばかりに焦点をあててきたからだ。真の改革のためには、日本の政治・経済のあらゆる過程に根を張り続け、行革をも奇貨として膨張を続ける「官の支配システム」に目を向けなければならない―ベストセラー「公益法人」の著者が、「史上もっとも成功した社会主義国」日本の病巣に迫る。(ブックカバーより転載)

▽著者略歴
 北沢 栄(きたざわ・さかえ) 1942年東京生まれ。慶応大学経済学部卒、共同通信社経済部記者、ニューヨーク特派員などを経て、フリーのジャーナリスト。1998年にジャーナリスト仲間とオンラインジャーナルのホームページ「殴りcom(http://www.the-naguri.com)を開設し、「さらばニッポン官僚社会」を連載中。著書に「公益法人―隠された官の聖域」(岩波新書)「金融小説 ダンテスからの伝言」(全日法規)など。


崩壊する映像神話(新藤健一著、ちくま文庫、880円+税)
▽目次
 メディアのインパクト
 1 一枚の写真から
 2 ウソ報道写真
 3 一人歩きする写真
 4 映像のカラクリ
 5 映像は証拠になりうるか
 6 映像シャーナリズムの裏側

▽内容―ヤラセ番組、ウソ報道のカラクリを見抜け!―
 写真や映像は真実を伝えるとは限らない。あなたがいま目にしている写真や映像にウソはないか。意図的にイメージが操作されてはいないか…。ヤラセ番組やウソ報道の手口からスクープ合戦の舞台裏、プロパガンダの実際、さらに最新デジタル画像のカラクリまでを、豊富な事例をあげながら子細に検証する。ますます情報化が進む現代社会で、騙されないための実践的メディア・リテラシーの技術。(ブックカバーより転載)
 
▽著者略歴
 新藤 健一(しんどう・けんいち) 1943年東京・浅草生まれ。東京写真短期大学(現、東京工芸大学)卒業。64年、共同通信社入社、帝銀事件・平沢貞通被告の獄中写真やダッカハイジャック事件などのスクープをものにしたフォトジャーナリスト。現在は共同通信社メディア局でインターネットの仕事にかかわっている。著書に「写真のワナ」(情報センター出版局)「見えない戦争」(情報センター出版局)など。「見えない戦争」は93年に本ジャーナリストクラブ出版賞を受賞した。

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