【10】

 「食」の背景には文化がある。
        ==もっと御飯を食べよう ==


 1月19日の昼、昔懐かしい味に出会った。場所は花のお寺として有名な瑞泉寺にほど近い伏島多佳子さんの御自宅(鎌倉市二階堂)だ。献立は、ごはん(4分づき)、けんちん汁、菜の花と人参の胡麻酢がけ、たくあん、ゆべし。いずれも、昭和30年代、一般の日本の家庭の食卓に並んでいたメニューばかりだ。伏島さんは、「生活と食を考える会 輪(りん)」(電話 0467-25-3970)の代表をされている。約2年前、「身体にいい、ごはんを中心としたおいしい日本の食事をお母さんたちに伝えたい」と考え、「輪」を発足させた。
 火鉢、鉄瓶、火鉢がセットになって置いてある純和風の落ち着いた雰囲気の部屋でいただいた。釜炊きのあつあつのごはんの香りは、子供のころの田舎のかまどに漂っていた香りに似ていた。とても美味しかった。視覚と嗅覚をおおいに刺激されたためだろうか。普段、ごはんは1膳しか食べない。しかし、この日は、少しお焦げの入ったごはんを2膳、いただいた。おかずの食材は、いずれも新鮮な季節の野菜が中心だった。
 伏島さんはもともと歯科衛生士。仕事として食事指導をしていた。食事指導といっても栄養学的なものではない。日本人が昔から食べていたごはんをもっと食べよう、という指導だ。「ごはんの食べ方が、減って日本の食事が変わってしまった。口で言っても効果がない。実際に、ごはんを中心とした日本料理を自分で作って、食べる体験をしてもらおう」と「輪」の活動を初めた。
ごはんをよそう伏島さん

伏島さん(左)とスタッフ

 伏島さんによると昭和30年代、日本人は1日にごはんを7、8杯食べていた。しかし、今は1杯、食べるか食べないかにまで激減した。「激減の裏には、米国の“小麦戦略”があります。(米国の小麦を日本に売り付けようと)学校給食で、パンを出すようになったんですね。それにドイツの1日30品目食べなければいけないという考え方が、浸透してしまいました。この結果、ごはんは、残してもいいものというふうになってしまいました。でも、人間の身体は基本的に、デンプンを食べるように出来ています。どこの国に行っても、主食はコメ、小麦、イモですね。人間の歯だって、臼歯がほとんどです。この歯の役割は、穀物を臼で噛み砕くことです」 
 「輪」の活動の柱は、食事会と「味噌づくり」「梅干しづくり」「糠床づくり」。「食事会では、一応季節のものしか出しません。基本はごはんと汁ものと漬物。物足りないと思うかもしれないが、肉と魚と油を使わなくても満足できるんです。もの足りないと思う人には、ごはんをお代りしてもらっています」
 伏島さんが、ごはんにここまでこだわるには、それだけの理由がある。「20〜24、25歳にかけて、アトピーがひどかったんです。顔から血が出て、まゆ毛がなくなるほどでした。お医者さんに行ったら、30年代のごはんを中心とした食事に戻せと言われました。実家は父が、3食パンでいい、というほどのこてこての“洋食党”だったんです。実際に作ってみたら、こんなにおいしいものがあるのかと思うくらいおいしかった。お陰でアトピーも治りました」
 年間、「味噌づくり」は50人、「梅干しづくり」に30人、「糠床づくり」に60人が参加するようになった。こう書くと「輪」は順調に発展しているように思われてしまう。が、実際は「2転3転してきました。手間ひまかけなくても、これだけ食べ物が世の中に溢れています。実際にやってみると、なんでこんな面倒臭いことをやらなければいけないの、となるわけです。それに若い人に技を伝えるには、時間もかかります。単に楽しいとか、ちょっと手づくりとか、健康志向という言葉では、言い表せない深いものがあるのです」
火鉢の置いてある部屋での食事会

 時々、自分のやっていることを「焼け石に水かも」と思う時がある。「やってくるのは美味しいものを食べたいとか、楽しい体験をしたいとかという人ばかりです。健康を害して…という人はいません」。でも伏島さんは一つの確信を持っている。「日本食には日本人の何百年の知恵、文化が隠されている。だれかが伝えなければ、このまま忘れ去られてしまう」

 いい体験をした。この日の伏島さんの自宅での食事会参加のきっかけは、グローバル・スクール・プロジェクトの花井有美子さんから、メール(内容は文末参照)をいただいたのが、きっかけだ。花井さんとは同じメーリングリストに所属している。メーリングリストに参加する前はまったく面識がなかった。
 余談だが、この食事会の参加者の中に「安田火災環境財団」でプログラムオフィサーをされている山中千花さんの姿があった。北鎌倉湧水ネットワークは、昨年、今年度の新規事業を行うために「安田火災環境財団」に助成金の申請をしようと考えていた。助成金申請の窓口をされていたのが山中さんだった。山中さんとは電話でやり取りをしただけで、実際にお会いするのは、この日が初めてだった。助成金申請は、手続きが間に合わなくて見送った。
 「安田火災環境財団」の設立母体は、安田火災だ。安田火災には恩義を感じていることがある。安田火災は、私がお手伝いしているNPO法人「北鎌倉の景観を後世に伝える基金」(理事長 なだ いなだ)が、機関誌「北鎌倉の風」創刊号を発刊した際、印刷費として30万円寄付してくれたのだ。約30社に協力要請したが、不況を理由にほとんどの企業が断ってきた。寄付してきれたのは安田火災と朝日生命、平和情報センターの3社だけだった。
 創刊号を発刊することで、運動の目的を理解してもらうことができ、300万円を超す浄財を集めることができた。「北鎌倉の景観を後世に伝える基金」は現在、会員約640人、緑地買い取り資金は1千万を突破するまでに育った。あらためて思う。人は縁によって結ばれている。この日の縁を大事にして行きたいと思っている。

*************************************
「花井さんからのメール」
1月19日(土)昼に、鎌倉の「輪」へ、 おいしい日本の手づくりの味をいただきに行くのですが、
ご一緒しませんか?
____________________________________
1月19日(土) <縁日(えんにち)【第一回】
生活と食を考える会『輪』 日本の伝統食(おふくろの味)をいただく
【写真】http://www.gsp-net.org/topic/bulletin/03/pic/rin02.jpg
「森の仕事」見学 … 『輪』主宰の伏島さんの家の裏山で 「森の仕事」に励むオジサンを訪問。
           ヒツジもいるんだって!?
場   所 : 神奈川県鎌倉市
待ち合わせ : 昼12時 JR鎌倉駅ロータリー方面改札口前
   ★ 要・事前予約 ★
会   費 : 1,000円
当日連絡先 : 090−4038−3817
* 生活と食を考える会 「輪」(りん)神奈川県鎌倉市 代表の伏島多佳子さんは、先ごろブームになった『粗食のすすめ』レシピ集 シリーズ(東洋経済新報社)の献立を担当するなど「食」の分野で活躍中です。 もともと歯科衛生士だった伏島さんは現在も医療の分野で仕事をしています。
 仕事をする中で、「食生活がとても乱れている現代の若者や小さな子どもを もつお母さんに、体にいい本当においしい食事を伝えたい」という思いがつの り、食生活を考える会「輪」を始められました。
 伏島さんは鎌倉の自宅を開放し、釜で炊いたご飯、自家製のぬか漬け、梅干、 お味噌汁など、昔ながらの心のこもった食事を出し、ゆっくりと話をしながら 味わいます。希望者には、季節ごとに、味噌づくり、糠床、梅干漬け、梅酒づ くりなどの手づくりワークショップもしています。
 「自分たちが出すものは、できるだけ土に返したい」と、野菜くずはほとん ど土に埋め、食器はすべて土に返る焼き物や木の素材を使っています。

*************************************

 

もどる