NPO課税で迷走中の公益法人改革
       ―抜本改革は制度自体の廃止がポイント―
                                   ジャーナリスト 北沢栄



・参考人陳述に至るまでの公益法人改革経過

 公益法人改革は、2000年12月、森喜朗内閣(当時)が閣議決定した「行政改革大綱」で、特殊法人改革、公務員制度改革と並ぶ「行革3本柱」の一つに位置づけられた。この閣議決定に基づき、内閣に行革推進事務局を設置し、3つの改革案づくりを同時並行的に推進することになった。
 2001年4月に発足した小泉純一郎内閣は「構造改革」を看板に特殊法人改革、なかでも道路公団改革に力を注ぐ。同年12月に決まった政府の「特殊法人等整理合理化計画」で、道路4公団の民営化、特殊・認可法人38法人の独立行政法人化などが決まる。だが、肝心の公益法人の抜本対策はまとまらずに結論は先送りされた。
 しかし、新たな策定の期限とされた2003年3月末になっても、結論はまとまらず、NPOの「原則課税」方針などで抜本的改革案は再び先送りされ、混迷を深める。こうした中で、公益法人改革関連法案を審議している参院厚生労働委員会が『公益法人 隠された官の聖域』(岩波新書)の著者である私を参考人として呼び、公益法人改革についての意見陳述を求めた。

『「新NPO」のコンセプトを提起/北沢栄が国会陳述』      
  5月13日午前に開かれた参議院厚生労働委員会に北沢栄が参考人として出席し、以下のとおり意見陳述した。同委員会で審議中の公益法人改革を推進するための厚労省関係法律整備に関する法律案に関連して、同委員会理事の山本孝史参院議員
(民主党)が出席を要請したものだ。

・ 当厚生労働委員会で審議中の法律案について述べる。昨年3月の閣議決定で検査・検定etc の事業についてはどうしても必要な場合は、こう定められた。「行政の裁量の余地のない形で国により登録された公正・中立な第3者機関による検
査・検定の実施とする」 ここから審議に当たり、3つのチェックポイントが浮かび上がる。

1 検査・検定自体を廃止できないか →規制撤廃
2 事業者の自己責任で自らチェックできないか
3 どうしても登録機関が必要なら、登録制とするが、その場合民間からの参入が公正に、ムリなく行われるようになるか。民間各社が登録しても、さまざまなムリ難題(参入障壁)を突きつけられて、結果的に従来の指定公益法人とか天下り会社だけが検査機関として選ばれることにならないか → 登録要件の公正化・規制緩和。閣議決定のいう「行政の裁量の余地のない形で」登録され、実施されるか。    
   

・ 厚生労働省所管の特殊法人、公益法人は、私の知る限り、大きな問題を抱えている法人が多い。たとえば、グリーンピア事業に大失敗した旧年金福祉事業団(いまの年金資金運用基金)とグリーンピアの運営を委任された公益法人の「年金保養協会」。全国の13基地にこれまで土地取得費・建設費合わせて2000億円近く費やしたうえ維持管理コストも多額。今年度予算でみると維持費に10億、建物の解体・撤去などに9億円もかけている。

・ 特殊法人「雇用・能力開発機構」も問題だ。全国2070カ所に設けたリゾート施設や体育館を1050円(川越武道館)とか1万500円で投げ売りして波紋を投げた。

・ 国民の代表である国会議員の先生方は、こういう官業の失敗、税金や年金で賄う国民負担、官僚の飽くなき権限・利権の自己増殖をきびしくチェックしてもらいたいと思う。とりわけ公益法人は「見えない政府」の典型例である。

・ 次に、原点に立ち返って公益法人改革の必要性について述べる。
  全国に2万6千以上もある公益法人のうち、きちんと公益事業をしている法人は数多い。しかし、次のような活動をしている法人が問題だ。全法人の2割くらい、5000法人強が問題法人のカテゴリーに入ると推定される。

・ 問題法人は、次のように大別できる。

1 行政の需要に基づいてつくられ、事業が行政と結び付いている法人(行政の外郭団体、行政周辺法人)
2 特定の業界や団体の共通の利益を追求する法人
3 本来なら民間の営利企業が行うべき事業を行っている法人


・ これらの法人を類型化すると、次の10種類に分類できる。

1 .国(一般会計、特別会計)から多額の補助金・委託費の交付を受け、それらを大学や研究機関などに再交付したり(いわゆるトンネル法人)、補助金・委託費で自らの収入の大部分を賄っている(いわゆる丸抱え法人) → 補助金のムダ遣い → 厚生労働省の所管公益法人では、こども未来財団、介護労働安定センター、国民健康保険中央会、ヒューマンサイエンス振興財団、産業医学振興財団 etc.

2 国の事務・実務を法的根拠によらずに独占事業の形で補助・補完している →国と一体化の国策法人 → 厚生年金事業振興団、社会保険健康事業財団、労災保険情報センター etc.

3 各省庁の事務に関連してそのシンクタンクとなり、調査・研究活動を通じて本省を外部から補佐している → 本来なら各省庁の企画部門などが直接行うべき調査・研究を定員の関係で外部委託している → シンクタンクの調査委託費を委託費の形で国民負担。関係業界に寄付や会費を求めがち。

4 特殊法人の事務・実務を補助・補完する→ 官業コストの国民負担。特殊法人と公益法人の二重構造でコスト高 → 全国年金住宅融資法人協会、年金融資福祉サービス協会 etc.

5 特殊法人が設けた保養所などの施設の管理・運営を行う→ 民業圧迫。特殊法人への借料の支払いはなく、事実上の国民負担 → 中野サンプラザ、年金保養協会 etc.

6 国家資格の試験や講習に関する事務を国から指定を受けて実施する → コスト高。民間参入阻害 → 医療機器センター、日本水道協会、テクノエイド協会 etc.

7 国が定めた基準に適合しているかどうかの検査、検定、認定などを国から指定を受けるなどして行う→ 民間参入阻害。コスト高 → 日本ボイラ協会、日本食品衛生協会、日本食品分析センター etc.

8 公益法人の付与する資格を国が認定する(お墨付きを与える) → 国の過剰関与。資格の権威付け、差別化 → 健康・体力づくり事業財団 etc.

9 国の職員の互助会、共済会が公益法人となっている → 相互扶助的な団体で公益法人として不適当。官庁OBが役員、子会社の株式を保有

10 上記以外の、行政により委託された特権型事業 → 民業圧迫。行政特権で利権を独占 → 環境省所管の国民休暇村(国立公園の規制区域内に設置)が典型。本来なら民間の営利企業が行うべき事業を行っている法人


・ 私の考える抜本改革案は次の通り。

→ 公益法人制度自体を廃止するのがポイントだ。設立根拠とされる民法34条は、なんと日露戦争前の明治31(1898)年の施行。この欠陥は、主務官庁が設立許可と監督権限を握る主務官庁制と、公益性がきちんと定義されていないところにある。新しい法律(革袋)に新しい活動力(ブドウ酒)を盛るべきだ。
NPO、法人格なきボランティア団体を含めた包括的な「新NPO」制度を創設する。内閣に設置する第3者機関の日本版チャリティ委員会が、届け出制にもとづき審査・認定する。認定されれば等しく税制優遇措置を受けられるようにする。(審査)対象には財団、社団だけでなく広義の公益法人、(つまり)学校法人、宗教法人、社会福祉法人なども含まれる。この新制度で民間活動が一挙に盛り上がる。

・ なお「中間法人」という法人がつくられたが、これはもともと仲間内の共益団体なので「公益法人」ではないので対象から除外する。

【参考】
北沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
http://www.the-naguri.com/kita/kita.html

 北沢 栄(きたざわ・さかえ)氏略歴 1942年東京生まれ。慶応大学経済学部卒、共同通信社経済部記者、ニューヨーク特派員などを経て、フリーのジャーナリスト。1998年にジャーナリスト仲間とオンラインジャーナルのホームページ「殴りcom(http://www.the-naguri.com)を開設し、「さらばニッポン官僚社会」を連載中。
著書に「公益法人―隠された官の聖域」(岩波新書)「金融小説 ダンテスからの伝言」(全日法規)など。

 

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