特   集


 北鎌倉一の白モクレン、今春で見納め?    「移植は至難の業」と造園業者


 

 いつもならひとりでに心が浮き立つ季節なのに、今年の春は物憂い。理由ははっきりしていて幾つかある。一つは喪失感に由来している。毎年、楽しみにしていた風景が見られなくなってしまった。さらに、ひょっとすると今年で見納めになってしまうかもしれない風景のことが気になっている。

小津安二郎は眠れない
http://member.nifty.ne.jp/Kitakama/2/0261/1.html

 ▽洋館より高く、枝振りも見事
 見られなくなった風景は、自宅近くの六国見山の中腹にある長窪地区のヤマザクラだ。宅地造成工事に伴って、昨年、重機によって自分の目の前で一撃のもとになぎ倒されてしまった。
 今年で見納めになってしまうかもしれない風景とは、マンション建設計画が明らかになったJR北鎌倉駅近くの小泉邸の庭の白モクレン。小泉さんは北鎌倉一帯に多くの土地を所有していた地主さんだった。樹齢を重ねたこの白モクレンは、小泉邸の洋館よりも背が高く、枝振りも見事だ。北鎌倉ではお寺や民家でよく白モクレンを見かけ
るが、小泉邸の白モクレンが何といっても大きさと形の良さでは一番である。
 梅の時期が終わり、サクラのつぼみが膨らむ頃、白モクレンは真っ白な花を咲かせ、毎年、道行く人の目を楽しませてくれた。小泉邸の前の魚屋さんの軒先きを借りて白モクレンの撮影した。「今年で見納めかも。残念ですね」と言ったら、魚屋の御主人も「本当だね。10人が10人そう言っているよ」と応じた。それだけ市民に親し
まれてきた。

 ▽白モクレンの保存を要望
 昨年秋、事業主の山田建設(本社、東京都大田区)は、北鎌倉らしい街づくりを目指している「北鎌倉まちづくり協議会」(坂田庄次代表幹事、http://www.kitakamakura.org/)に、競売で取得した小泉邸を中心としたかつての小泉さんの所有地に5階建て、50戸のマンション建設計画を説明した。
 これに対し、「北鎌倉まちづくり協議会」は(1)北鎌倉の歴史や景観に配慮した計画の立案(2)極力、住民の要望を取り入れる(3)4階建てを希望する(4)鎌倉街道側の白モクレンを保存してほしい(5)JR線路側の樫やイチョウの大木8本を保存する―など9項目の要望を提出した。

 ▽話が噛み合わない
 この要望に対し、山田建設は今年1月16日付けで「北鎌倉まちづくり協議会」に文書で回答した。さらに3月15日の「北鎌倉まちづくり協議会」の定例会に出席し、回答文書を踏まえ、口頭でも説明した。説明の要旨は(1)鎌倉街道側の白モクレンは移植して保存する(2)JR線路側の大木はできるだけ残す(3)採算面への配慮し、5階建てではなく6階建てとし、戸数も50戸を64戸に増やす―など。
 私も「北鎌倉まちづくり協議会」の会員なので、この場に同席したが、事業者の説明を聞いたり、持参した設計図などを見て、「北鎌倉の歴史や景観に配慮した計画の立案」という協議会の要望の意味を事業者はまったく理解していないのではないかという印象を持った。理解していたら当初の5階建ての計画をわざわざ、6階建てに変更するはずがない。双方の話が噛み合っていない。

▽一見、前向き回答に実は問題が
 白モクレンに関しては、「鎌倉街道側の白モクレンは移植して保存する」ということで、前向きの回答を得たように思えるが、実は問題がある。この白モクレンは写真にあるようにものすごく大きい。素人目に考えても簡単に移植が、成功するとは思えない。
 知り合いの造園業者は「5年とか10年という単位ならともかく、何十年も移植していないようなので、根ががっちり張っているはず。移植は至難の業だ。もし、移植の時期が冬でなければ、90%以上の確立で枯れてしまう」と断言している。「今年で見納めかもしれいない」という懸念には根拠がある。時間があったら白モクレンの花が咲いているうちに一度、足を運んで、目に焼きつけておいてほしい。(了)
 

 

道行く人々の目を楽しませてくれてきた
小泉邸の白モクレン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もどる