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湧水公園、待望のオープンへ
―湧水都市への夢膨らむ―  2002.6.29
 

 自噴井戸とこの井戸から出た湧水を活用したひょうたん池を備えた「湧水公園」が 間もなく、鎌倉市内にオープンする。「湧水公園」づくりは、湧水を使った「潤いの ある街づくり」を目指す、鎌倉市の市民団体「鎌倉市民同窓会」(藤井経三郎代表) が、取り組んできた。「鎌倉市民同窓会」は7月21日(日)に関係者を集めて、「湧 水公園」のオープンに向けたセレモニーを開催する。翌日からは市民が自由に利用で きる「憩いの場」になる予定だ。いよいよ湧水を生かした街づくりが、現実のものに なりつつある。

▽「鎌倉メダカ」を放流か
 「鎌倉市民同窓会」は昨年1月、鎌倉市岩瀬の「いわせ下関青少年広場」で、昔な がらの「上総掘り」による自噴井戸の掘削を始めた。(参照:北鎌の森からバックナ ンバー「湧水の街づくりに向け発進   北鎌倉で自噴井戸掘りスタート  2001.2. 4 」)
 予定では、3週間程度で井戸を掘り当てられると思われていた。しかし、厚い強固 な岩盤に突き当たったため、作業は難航し、水が出るまで10ヶ月の月日を要した。こ の井戸は深さ約176メートルで、現在、毎分およそ7リットル、水温16・5度の地下水 が湧き出ている。井戸には常滑焼きの土管を据え付けた。
 一方、池は直径約4メートルと、約5メートルのヒョウタン型だ。鎌倉固有種の「鎌 倉メダカ」などを池に放流し、ビオトープ(生物生息空間)としての整備を目指す。 すでに池の周囲には植栽が完了し、ベンチも設置された。池のデザインは坂田庄次建 築設計事務所が担当し、池づくりには今春、岩瀬造園の梅沢勝良代表のアドバイスの 下、地元町内会に加え、横浜国大付属中科学部の生徒と岩瀬中のエコクラブがボラン ティアで参加した。
 これも何かの縁であろう。地ビール「北鎌倉のめぐみ」の水は、梅沢代表の実家の 井戸水なのだ。「湧水公園」と梅沢さんの実家は目と鼻の先の距離にある。

▽市民とプロの共同作業
 池づくりに限らず、今回の湧水公園づくりの大きな意義は、無名の市民とその道の プロが「湧水を使った、潤いのある街づくり」という目標実現に向けて、がっちりと スクラムを組んだことにある。しかも、このプロジェクトは、「官」主導ではなく、
完璧に「民」主導で推進された。地域の特徴を生かした街づくりの一つのモデルにな るのではないか。
 ちなみに自噴井戸掘りに協力したその道のプロは、鍛治工房「三嶋屋」(飯田秀男 代表)、宮大工「松本社寺建設」(松本高広社長)、「沖田鑿井設備工業」(沖田日 出夫社長)、竹細工「おかもと」(岡本詳三代表)など。井戸水が出たことを祝う会 の席で、ヒゴ車を設計した松本高広社長は「伝統の技が社会のお役に立った」と嬉し そうに話していたのが、印象的だった。

▽仕掛け人兼プロデューサー
 プロジェクトが成功するためには、多くの人々の協力が必要なことはあらためてい うまでもない。しかし、必ず、キーパーソンが存在するというのも事実だ。今回の「 湧水公園」に関しては、私が知る限り、キーパーソンは3人だ。
 最初の一人は、湧水探索集団「グループ・アクア」の鈴木伸治さんだ。表面にはほ とんど出ないが、仕掛け人兼プロデューサーという重要な役割を果たしている。
 鈴木さんの「湧水公園」の仕掛けは、数年前、北鎌倉・六国見山近くの小坂小学校 の改築にかかわったことから生まれた。この時、校庭の片隅に自噴水を掘った。自噴 水からはこんこんと水が湧き出た。水質はヨーロッパの名水「エビアン」と同じ軟水 。ちょっぴり甘い味がする。この水を部活を終えた生徒が、嬉しそうに手ですくって 飲む。評判を聞いた近所の人も、ペットボトルを持ってやってくる。
 鈴木さんは考えた。「鎌倉市は、歴史と文化と緑に恵まれている。でも、高齢化が 進み、人口が減少傾向にある。停滞を打破するために、湧水を使って、街づくりがで きないものか。200くらいの自噴井戸がある。しかし、いずれも個人の家のものだ。 そうだ、市民が自由に立ち寄れる、自噴井戸のある湧水公園を作ろう。井戸水を使っ て、小川も作り、ザリガニを棲めるようにしてもいい。子供が喜ぶぞ。災害時の非常 用の井戸に使ってもいい」

▽汗と涙
 上総掘りは、深い水脈まで、管を通し、水圧で水を噴き出させる工法で、明治中ご ろ普及した。戦後しばらくは日本各地で、この工法で井戸が掘られた。先端に鋼のノ ミを付けた掘鉄管に竹ヒゴを継ぎ、地面に突き降ろしながら、掘り進む。動力はヒゴ 車の中で、人が歩いて回す人力。環境にやさしいが、かなりの重労働だ。
 この重労働を担ったのが残りの二人のキーパーソン、若林伝吉さんと甘粕喜太郎さ んだ。二人が 中心になって、実際に井戸を掘った。二人は幼馴染みで、現在は農業 を営んでいるが、井戸掘りの技術を持つ元井戸掘り職人だ。上総掘りの依頼は40年ぶ りだったので、二人は「上総掘りのメッカ」である千葉県の木更津まで、「三嶋屋」 の飯田代表や「松本社寺建設」の松本社長らと何度か足を運び、本場の技術を復習し た。
 寒い日も暑い日も二人は交代で、ヒゴ車を歩いて回した。しっかりと汗をかいた。 この作業がいかに大変だったかは、昨年末、自噴井戸を掘り当てたのをお祝いする会 の場で明らかになった。お祝いする会には、関係者だけでなく、近所の人もたくさん やってきたが、ねぎらいの言葉をかけられた二人は人目も憚らず涙ぐんでいた。町内 会長が「若林さんの奥さんから、嘆願された。このままでは夫が過労で死んでしまう 。夫に止めるようにいって下さい」と、とっておきの話をした。すると若林さんの目 からまた、ジワーッと涙が湧き出た。そして若林さんは言った。「冥土の土産になっ た。いつ、死んでもいい」。
  

自噴井戸から湧き出た水はひょうたん池に流れ込む お祝いする会で涙ぐむ若林さん(右)と甘粕さん(左)
寒い日も暑い日も若林さん(手前)と甘粕さん(後方)は井戸を掘り続 けた
関係者の記念撮影(2001年12月 鎌倉市岩瀬の「いわせ下関青少年広場 」)  


▽湧水公園に関する問い合わせ先 
 鎌倉市民同窓会・木村由利子さん 0467(23)3954

▽関連HP
今鎌倉が危ない
http://plaza.harmonix.ne.jp/~kamakura/


▽参考
「掘削資金がピンチです」
−上総掘り湧水募金 お力添えのお願い−

 私達鎌倉市民同窓会は、環境、福祉、文化の領域において、まちづくりの為のさま ざまな市民活動を続けてまいりました。
 その活動の一つとして、かねてから北鎌倉から大船にかけての貴重な地域資源であ る湧水をテーマに、湧水シンポジウムや、湧水ウオークなどを実施し、ひろく注目を 集めてまいりました。さらに昨年度からは伝統的な上総掘り工法の復元による井戸掘 りを実施することとし、環境庁の外郭団体である環境事業団の助成を得て、市民や関 係者の資材の提供をもとに、地元の伝統的技術者の方々の手によって鋭意掘削作業を 続けてまいりました。しかし、掘削場所の特性から本年1月の着手以来、当初予定の 2カ月間を、遥かに超え、約4倍の8ヶ月間を費やすこととなり、漸くこの9月、深 度170m余りの滞水層に達し水温15.4度、毎分5リットルの自噴水を得ること ができました。これから湧水施設の整備にとりかかり、地域の暮らしや防災にお役に 立つよう進めたいと考えております。
 しかし、今までの掘削作業は、有償のボランテイアで御願いしているものの、予想 を超える費用の負担が発生し、環境事業団の助成の枠を大幅にオーバーし、その対応 に大変苦慮しております。
 私たちとしてもさまざまな工夫と活動で補っていくつつもりですが、鎌倉の環境の 保全と活用にご理解ある市民や企業・団体のみなさまのお力添えをぜひいただきたく 、ここに湧水募金のお願いをさせていただくことになりました。何卒ご高配のほど宜 しくお願い申しあげます。

 平成13年10月
 鎌倉市民同窓会
 代表  藤井経三郎

上総掘り湧水募金 個人 1口  1,000円
            団体 1口 10,000円
 
お振込み先 口座名 鎌倉市民同窓会
        富士銀行鎌倉支店 普通 1596257
        横浜銀行鎌倉支店 普通 1304520
        郵便貯金 10210-76983731                                  (了)



北鎌の森からバックナンバー
2001.8.26号 (姿見せた中世の大規模遺跡
2001.2.12号(北鎌倉で自噴井戸掘りスタート)
2001.8.01号(失われゆく森への鎮魂歌)
2001.12.18北鎌倉の恵みシリーズ完売!
2002.16.2(小津安二郎は眠れない 
2002.6.10号(目前の景色がやがて歴史になる)




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